賀茂鶴 別撰 吟醸酒 720ml

山の中に造られた広島空港。そこからほぼ真西へ約18㎞の位置に、ＪＲ西条駅を中心とした旧西条市街が広がる。
この辺りは中国山地の山々に囲まれた標高約200mの高原盆地で、夏の涼しさと冬の適度な冷え込みが酒造りに適している。また、周辺の山々から湧き出す伏流水に恵まれていることから、街の文化・産業として酒造りが行われており、日本三大銘醸地の一つに数えられている。
そんな西条で会社設立１００周年を迎えた「賀茂鶴酒造」は、全国酒類鑑評会をはじめ、各品評会において幾度も入賞を果たしている。昭和33年に、全国で「大吟醸特製ゴールド賀茂鶴」を発売した吟醸造りの先駆け的な存在である。
吟醸酒といえば「華やかで香りの高い酒」「ワイングラスで飲む」といったイメージがあるもしれないが、本来の吟醸酒は、食事に合わせて楽しむしっかりした味の「味吟醸」が主流である。賀茂鶴酒造の「賀茂鶴 別撰 吟醸酒」は、そんな正当派の味わいの豊かな吟醸酒だ。
「吟醸香はちぃと（ちょっと）香るくらいなんじゃけど、そのぶん、酒の柔らかな味わいをよう感じられて、これがええんです」と杜氏の沖永さん。どんな料理に合うか質問したところ、「この時期なら何といっても鰆の西京漬けがええですよ！」とおすすめを聞くことができた。
鰆は、魚偏に春と書くように、産卵前の今が旬。ふっくらと柔らかく、程良く脂がのった身に、西京味噌のまろやかな甘みが加わって、口に運ぶごとに幸せになれる。そこに、ぬる燗（40度）の吟醸酒を一口。「ふ～っ…」と思わず、言葉にならない一音。ほろりと柔らかな鰆の身と、優しい西京味噌の味わいが「別撰　吟醸酒」の繊細な香りと味を引き立てる。食べては呑み、呑んでは食べ、と箸と盃が止まらない。

文/清酒バイヤー　森藤

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